「より細かな不純物も濾過(ろか)したい」、「より高温の原材料を、より高圧で濾過したい」、「より長期間、濾過フィルターを使いたい」。そうした難易度の高いニーズに応えていくには、フィルターの表面で濾過をするだけでは追いつかず、深い層を持ったフィルターが必要になります。
その時、フィルターの性能を左右するのが、中味である「濾材(ろざい)」です。
私たち渡辺義一製作所が得意としている濾材は、メタルファイバー。ステンレス鋼を、ミクロン単位の繊維状にし、焼き固めたもの。いわば“金属でできた綿”です。その金属加工のしかたや、焼き固めかた、密度や厚さの設定などに、私たちの長年のノウハウが詰まっているのです。
しかし、ユーザー企業からの「もっとよく濾過をできるものを」という要望は、とどまるところをしりません。そうした声に答えるには、さらなる新製品を開発する必要がありました。
それまでの濾材は、メタルファイバーが一つの層になったものしかありませんでした。不純物を取り除く能力や耐久性を高めるためには、異なるフィルターを重ねればよいのではないか、と私たちは発想しました。
たとえば、細いメタルファイバーの層の下に、太いメタルファイバーの層をくっつけることができれば、除去能力を高めながら、丈夫で強い圧力に耐えられるフィルターになるはずです。
しかし、それまで「単層」のフィルターしかなかったのは、理由がありました。異なる2つのフィルターがくっつかなかったからです。同じ金属からできたメタルファイバーでも、太さが異なると、熱を加えたときの膨張率が異なります。細い方がより大きく膨張するので、すぐに外れてしまったり、曲がってしまったりするのです。
細いメタルファイバーと、太いメタルファイバー。2種類をくっつけて、熱を加えても外れないようにするには、どうすればよいか。さまざまな方法を試した末に、私たちが辿り着いたのは、焼鈍(しょうどん)という金属加工の方法でした。
「焼きなまし」とも言われるこの方法を、ごくカンタンに説明しましょう。普通の方法では、くっつけたい部分だけを高温に熱して、少し溶かしながら、くっつけます。しかし焼鈍では、真空の炉の中で、2つの材料それぞれを、まず高温にします。たとえば、1,300℃で溶けてしまうメタルファイバーだとすれば、その直前、1,200℃にまで温度を上げます。そのうえで、くっつけ、徐々に冷やします。そうすると、再び高温になったときに、外れないようになるのです。
どれくらいの温度で、どれくらいの時間保持してから、くっつければよいか、どのように冷やせば良いか、など、熱処理のノウハウを駆使し、さまざまな方法を試す中で、多層化フィルターは実現へと向かっていったのです。
焼鈍によって、太さの異なるメタルファイバーの焼結に成功した私たちは、さらに、その下に、太くて丈夫なワイヤーメッシュを焼結しようと試みました。
より粘度の高い原材料を、より高い圧力で、フィルターに流したいとき、それに耐えるためには、一番下の層に、ワイヤーメッシュをくっつけることができれば理想的なのです。
ワイヤーメッシュの焼結は、太さの異なるメタルファイバーの焼結より、さらに難易度の高いものでした。しかし私たちは、金属の熱処理の専門家と力を合わせ、焼鈍の技術を高めて、この難題もクリアすることに成功しました。
こうして生まれた、「プレサイスLFW」という製品。これまで単層しかなかったメタルファイバーのフィルターの世界で、私たち渡辺義一製作所が生み出した、初の多層フィルターです。「W」という社名の頭文字に、私たちの想いを込めてあるのです。