私たち渡辺義一製作所の得意分野は、合成繊維や化学フィルムなどをつくる工程で欠かせない「濾過(ろか)」。そのためのフィルターが、私たちの主力製品です。
濾過というと、液体を濾して不純物を取り除くことを思い浮かべる方が多いかもしれません。それも正解ですが、濾過にはもう一つの重要な役割があります。それは、通っていく物質を均一な品質にすること。原材料がよく混ざっていなかったり、固まっている部分があったりすると、後の工程で良い製品ができないからです。
原材料の流動物の中で、粘性が高くなって固まっている部分を「ゲル(英語ではジェル)」といいます。たとえば、こんにゃくはマンナンのゲル、豆腐は大豆タンパク質のゲルです。これらの場合はわざと固まらせているのでOKですが、固まらせたくないのに固まってしまった場合は問題が起こります。
私たちのつくるフィルターには、不純物を濾すだけではなく、固まってゲル状になったものを分散させて元に戻す、という役割も期待されているのです。
私たち渡辺義一製作所がつくるフィルターの中味は、メタルファイバー。ステンレス鋼を、ミクロン単位の繊維状にして焼き固めた、“金属でできた綿”です。 その中を流動物が通っていく時に、不純物を濾し、ゲル状になったものを分散させるわけですが、ゲルが硬かったり大きかったりすると、分散できずに詰まってしまいます。
「分散させる性能を、もっと高めてもらえないか」 合成繊維や化学フィルムなどのメーカーからの、そうしたリクエストに、私たちはどのようなフィルターで応えたのでしょうか?
ヒントは、身近なところにありました。
生卵をとくとき、私たちはふつう断面の丸い箸を使います。しかし、けっこう時間がかかるわりに、いくらかき混ぜても、どろっとした白身が残っていることが多いですよね。あれも一種のゲルです。
そこで、ハサミを開き気味にして箸のように持ち、生卵を混ぜてみたら、どうでしょう。丸い箸よりも、ずっと短い時間でよく混ざるはずです。ハサミの断面がとがっているために、生卵の組織をうまく分散させることができるのです。
ハサミではなくても、たとえば、断面が三角の箸であれば、丸の箸よりも、黄身と白身をよく混ぜることができます。この原理が、私たち渡辺義一製作所の新発明に繋がったのです。
“金属の綿”ともいえるメタルファイバーをつくる際、材料である金属を繊維状に加工します。断面が○ではなく、△などの多角形になっているものが存在していました。
金属加工会社によれば、コンクリートに入れて強度を高めるために使われていた例はあるものの、今ひとつ、有効な利用法が見つかっていなかったそうです。△のメタルファイバーの存在を知った私たち渡辺義一製作所が思いついたのは、「フィルターに使えないだろうか」ということでした。
さっそく、試行錯誤が始まりました。苦労したのは、その繊維をどう焼き固めるか。削り取った金属は短くて直線状なので、これまでの焼結方法では固まりにくいのです。しかし、私たちには[Episode 2]で紹介した焼鈍のノウハウがありました。さまざまな温度や時間を試し、効率的に焼き固めることができるようになったのです。
こうして実現した、断面が△のメタルファイバー。ゲルが通ったとき、その組織を切るようにして分散するため、詰まりを減らし、より均一な品質にすることができます。また、これまでのフィルターに比べ、1.5倍も長持ちするようになりました。
この画期的な製品は、「生卵を混ぜる」という身近な知恵をヒントに、生まれてきたのです。