高分子ポリマーの濾過という、世界最先端の化学分野で活躍する、私たち渡辺義一製作所。ある時期、たくさんの土鍋をつくったことがあります。鍋料理好きの社員のコレクションではありません。見れば、割れたり欠けたりしているものばかり。いったい、何があったのでしょう。
その謎を解くためには、まず土鍋とIHについて、話しましょう。
最近の土鍋には、IH対応のものが出てきています。IHといえば、金属の鍋やフライパンがふつうですが、土でできた土鍋がどうして使えるのか、考えてみれば、ふしぎですよね。どうしてでしょうか?
ガスコンロでは火を使って鍋を温めますが、IHでは、鍋自体を熱くさせます。その仕組みはこうです。
IHの機器の中には磁力発生コイルが入っていて、電気を入れると、鍋の底に磁力をかけます。すると、鍋の底にうずのように電気が流れます。電気が流れると、抵抗によって熱が発生します。(電球をつけると熱くなるのと同じです)
だからIHは、電気を通す金属製しかつかえません。ガラスの器や土鍋は電気を通さないため、発熱しないのです。
でも「やっぱり鍋料理は土鍋でないと!」という方も多いですよね。そこで、土鍋メーカーは、土鍋の底に金属をつけて電気を通すことを思いつきました。でも、簡単ではありませんでした。たとえば鉄をくっつけたとすると、陶器と鉄は、熱くしたときの膨張率が異なるため、取れたり割れたりしてしまうのです。
現在では、さまざまな方式のIH対応土鍋が販売されていますが、土鍋と相性のいい金属である、銀の膜を転写して貼り付けたものが主流になっているようです。では、渡辺義一製作所と土鍋の話に戻りましょう。
渡辺義一製作所と土鍋の話。主役は[Episode 3]で登場した、断面が△のメタルファイバーです。断面が○のものに比べて、ゲルを分散させる力が強いのですが、私たちは、この三角メタルファイバーには、他にも可能性が秘められているのではないかと考えました。
試しに電気を通してみると、断面が○のものよりも、早く強く発熱しました。電気が通る際、抵抗が高いからだと考えられます。それを何かに使えないか……。そこで、私たちが思いついたのが、土鍋でした。
当時、IH対応をうたう土鍋はすでに販売されていましたが、発熱しないなど、問題を抱えている製品が多かったのです。
三角メタルファイバーを土鍋の底に埋め込めば、既存のIH対応土鍋よりも、少ない電流で大きく発熱する、効率のいい土鍋ができるはずだ。私たちは、焼きものの窯元へ、三角メタルファイバーを持ち込みました。「このメタルファイバーを練り込んだ土鍋をつくってほしい」と。
三角メタルファイバーに、大きく興味を示してくれた、信楽焼のある窯元がありました。私たちは滋賀県の信楽へ通い、その窯元と協同の取り組みを始めました。
窯元では、三角メタルファイバーを練り込む密度や、焼くときの火加減など、さまざまな方法を試してくれました。しかし、熱を加えたときの土とファイバーの膨張率の違いによって、
何度やっても焼き上がる前に割れてしまうのです。三角メタルファイバーが、より発熱しやすいということもあり、どうしても、その壁をクリアすることができませんでした。
そうこうするうち、他社から、銀の膜を転写して貼り付けた土鍋が登場。従来のIH対応土鍋に比べて性能がよく、主流になっていきました。その時、私たちの土鍋づくりの挑戦は、終焉を迎えたのです。
しかし、三角メタルファイバーは、大きな可能性を秘めているはずです。土鍋づくりは失敗に終わりましたが、私たちはあきらめていません。次の“試す”へ向かっていきます。なにせ私たちは、「試しつづける製作所」ですから。